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【基本情報】
名前:ティティス 年齢:21 性別:女
クラス:ウォーリア/レンジャー 種族:エルダナーン キャラクターレベル: 3
所属ギルド:??????? ギルドマスター名:???? ギルドレベル:?
出自:傭兵 境遇:呪い 運命:復活
特徴:「感知基本値」+3
【基本的な能力】
HP:40 MP:36 フェイト: 5
基本 能力B メイン サポ 合計
筋力 12 4 1 1 6
器用 12 4 1 1 6
敏捷 8 2 1 0 3
知力 10 3 0 0 3
感知 12 4 0 1 5
精神 10 3 0 0 3
幸運 7 2 0 0 2
【スキル】
《イモータリティ》 魔術以外の知力判定達成値+1
《ボルテクスアタック》 白兵攻撃のダメージ+3D6、1シナリオ1回だけ使用可
《ブルズアイ》 射撃攻撃のダメージ+3D6、1シナリオ1回だけ使用可
《バッシュ》3 メジャー、武器攻撃のダメージ+3D6、コスト4
《ボウマスタリー》 弓の命中判定+1D6
《インヴィジブルアタック》 マイナー、武器攻撃の命中判定+1D6、コスト3
《ダブルショット》 メジャー、2回射撃(処理は別々)、コスト9。
《クローズショット》 マイナー、同一エンゲージ内の敵を射撃可能にする。コスト3
【戦闘関連】
能力 装備 スキル その他 合計(ダイス数)
命中判定 6 −2 −− −− 4(3D)
攻撃力 −− +7 −− −− 7(2D)
回避判定 3 −− −− −− 3(2D)
物理防御 −− +4 −− −− 4
魔法防御 3 −− −− −− 3
行動値 8 −3 −− −− 5
【装備】
装備箇所 重量 命中 攻撃 回避 防御 行動 射程 備考
右手:ロングボウ 6 −2 +7 −− −− −3 40m 両手
左手: −− −− −− −− −− −− −− −−
頭部: −− −− −− −− −− −− −− −−
胴部:革ジャケット 5 −− −− −− +4 −− −− −−
装身: −− −− −− −− −− −− −− −−
合計: 6/5 −2 +7 −− +4 −3 −− −−
【所持品】
所持品 重量
冒険者セット 5
MPポーション 1
バックパック 0
総重量 6/17
所持金 10GP
【設定】
ティティスの意識が戻ったとき、洞窟の中にはもはや、風の精霊王の気配は微塵も感じられなかった。地面に横たわるボロボロの身体をやっとの思いで引き起こしたが、そこで力尽き、背後の岩に倒れ込んだ。その弾みで、空気が肺から一気に逆流し、ティティスは激しく咳き込んだ。
「うっ……」
それが収まると、口の中には鉄の味が広がっていた。口元を押さえていた手を見ると、血が付いていた。おそらく肺からの出血だろうが、本当にそうなのかは自信がない。風の刃によって、ティティスの身体は切り刻まれ、出血していないところを探すのが難しいからだ。四肢に欠損がないことが奇跡だった。
「それでも私は……死ねない」
ティティスは、呪術師の最後の言葉を思い出し、苦々しくつぶやいた。
風の精霊王の絶大な力を手に入れようと、外の世界から魔術師がやって来ることがある。エルダナーンであるティティスの一族は、遙か昔より、そうした者達から精霊王を守護する役目を担っていた。かといって排他的であるわけではなく、近くの人間の村で、農作物の危機的な不作が起こったときなどは、風の力で雲を呼び、雨を降らすことで村を助けたりもした。
ティティスは一族の中でも希有な才能を持っていた。通常100年以上修行を積まなければ得られない「巫女」の資質を、10歳になる頃には開花させていたのである。
精霊の力を借りるには、その精霊が使うレベル以上の言葉を持って精霊と言葉を交わす必要がある。これ自体は、エルダナーンなら生まれつき持っている能力だが、精霊王となると話は別である。下級の精霊ならば、交信に用いるのは精霊語であり、ヒューリンの中でも素質があり、かつ努力をすれば、精霊の力を借りることはできる。しかし、精霊王との会話には、古代上位精霊語が必要であり、これの習得には、通常ヒューリンの寿命では間に合わないほどの時間がかかる。ティティスはこれを、精霊との交信を始めて1ヶ月程でマスターした。これに加え、ティティスは精霊の存在を感じ取る能力が抜きん出ていた。精霊王の存在を具体化するためには、通常何日か、時には何年もかけて儀式を行う必要があるが、ティティスはその気になれば1時間で召喚することができた。
ティティスは、この二つの能力を持って、嵐によって滅びようとしている王国を救ったこともあった。
そして、その日に起こった事件も、ティティスの村人にすればいつものことだった。強大な魔力を持った何者かが、王が存在する山に向かって来ていたのだ。
「長老、様子を見て参ります」
そう言って、ティティスは山頂の洞窟へ向かった。事の始終を見届け、万が一精霊王に危害が及ぶようならば、自分の力を持って敵を排除するのも、巫女の重要な役目だった。
「本当にしょうがないわね……」
ティティスはぼやいた。精霊王の力は、1国を優に滅ぼすだけの力を持つ。場合によっては、この世界すらも崩壊させうるだろう。その力を手にする者は、この世を支配できるといっても過言ではない。しかし同時に、精霊王は神と並ぶ存在であり、容易に支配など出来るわけがない。もちろん、ティティスは精霊王を支配しようなどと考えたことはなかった。王にとってもティティスの存在は珍しいようで、まるで本当の家臣のように気さくに会話を行ってくれた。もちろん、ティティスのように、頻繁に呼び出し、呼び出される事など特例中の特例である。実際にこの山へ、王を召喚しようとやってきた者の大半は、その姿を見ることもかなわなかった。しかしそれは幸せな方で、中には、ティティスにも聞くに堪えない古代上位精霊語の様なものを口にしたがために王の怒りを買い、風の刃で切り刻まれた者もいた。
「なに……これ? 風が山を登っている!?」
自分の脇を風の精霊が追い越したとき、ティティスは異変を感じた。精霊の様子がいつもと違ったのだ。何か、熱に浮かれたようにふらふらとしていた。そこで周囲を見渡すと、山にいる精霊達は、皆山頂の洞窟に向かっていた。全ての下級精霊が王の洞窟に集まることなど、まず考えられないことだった。
「おかしい……!」
ティティスは、洞窟へ向かって走り出した。
洞窟の入り口についたとき、下級精霊達は洞窟の入り口に集まっていた。聖域の力によって、進入こそ阻まれていたが、精霊達は構わず入り口に飛び込もうとしていた。その精霊達を避けてティティスが洞窟に入ろうとしたところ、凶暴化した精霊が一斉に自分に向かってきた。
「やめなさい!」
ティティスは通常の精霊語で語りかけた。しかし、精霊達は止まる気配がない。
「王の名の下に、私に道を開けなさい!」
そこで、ティティスは古代上位精霊語で下級精霊に命を下した。すると、精霊達は二つに別れ、洞窟の入り口に向かって1本の道ができた。下級精霊にとって、上位の言語は呪いの様な効果を持つ。そのため、ティティスが入り口に向かって走っているときも、動くことが出来ない精霊達は、牙をむき出しにしてティティスを威嚇していた。
「何が起こっているというの!?」
ティティスが洞窟に入った瞬間、後ろでは再び精霊達が中に入ろうと、洞窟の入り口に群がっては聖域の守護によってはじき返されることを繰り返し始めていた。
洞窟の中は暗闇に支配されていたが、ティティスは何回もこの場所を訪れているので迷うことはなかった。しかし、砂の敷き詰められた回廊をすすむうちに、ティティスは吐き気を催していた。原因は、洞窟内に充満している禍々しい空気だった。
(精霊達は、きっとこの障気に当てられたのね……)
どうやらこの障気には、精霊を惹きつける効果があるようだ。しかしそれは、媚薬といった類の物ではなく、どちらかといえば呪いといった方がいいかもしれない。人間に比べて精霊に近い種族であるティティスの身体も、動きがだいぶ弱ってきていた。それでもティティスは、意識を集中させて足を止めることなく動かし、王の間へと急いだ。
見知ったはずの王の間は、ティティスの全く知らない空間になっていた。澄みきった空気で満たされていたはずの場所が、今は障気の中心だった。とても長居したいような雰囲気ではない。今こうして立っているだけでも、身体から徐々に力が抜け、代わりに何かが浸食しようとしているのがわかる。そして、その発生源と思われる物体は、洞窟の終着点である祭壇の前に、一人の人間を伴って置かれていた。
「あなた、何をしているの!?」
ティティスは、己の左腕をつかんだ右手に力を込め、全身の震えを抑えながら叫んだ。虚勢だということは自分でよく分かっていたが、それでも背筋を伸ばして相手を睨みつけることはやめなかった。
「あら……? この状況でここまで来ることができるなんて……。すると、あなたが精霊の巫女なのかしら?」
魔術師の好んで着るローブを纏った人間は、意外にも若い女性だった。相手が人間だとしたら、20代中盤といったところだろうか? その女性はゆっくりとこちらへ向き直り、フードを取り払うと真っ赤な瞳でこちらを見据えてきた。顔立ちは整っており、間違いなく美女の部類だったが、唯一、燃えたぎる溶岩のような色の瞳だけが異様であった。
「人間の魔術師風情が、風の王を支配できると思っているの!?」
相手の質問には答えず、ティティスは問いただした。
(急がないとこの身体……もたない!)
実際、今もこうして立っているのが精一杯だった。
「うふふ……。そんなに慌てなくてもいいじゃない? まあ、せっかくだからリクエストに応えて儀式を進めましょうか」
そう言うと、魔術師は前に向き直り、風の王の祭壇に置かれた物に手を添えた。その瞬間、供物はビクッと跳ね上がり、同時にこの空間を包む邪悪な気配が密度を増した。卒倒しそうな所をこらえ、魔術師の手元を見たとき、ティティスは全てを理解し、怒りで苦痛を忘れた。
「あなた、自分が何をしているか分かっているの!?」
魔術師の手元にあったのは、物質化された精霊だった。しかも、その精霊は人間の幼い子供に寄生するように物質化されており、子供の方は、うつろな目で虚空を見つめているだけだった。
精霊は通常、妖精などとは違い、人間と同じような「身体」を持つことはない。よって、目で見ることはできないのだが、禁忌の古代魔法として、他の生物を触媒にして、精霊を物体化する魔法があった。大抵の場合は、術者が己の身体に精霊を宿し、より上位の精霊と交信を行うために使用した。雨乞い等がよい例である。この時、例え自分が死んでしまっても、身体に宿した精霊だけは無事に解放しなければならない。さもなくば、自分の死と共に精霊の存在を書き換えてしまうからだ。過去に未熟な魔術師が雨乞いをしたとき、己の身に宿した精霊を解放できず、その精霊を悪霊にしてしまったために水の精霊王の怒りに触れ、1000年間雨が降らなくなった土地も実際にあった。それだけ、借り受けた精霊をきちんと元に戻すというのは大変であり、重要なのだ。
ところが、今ティティスの目の前で行われている儀式は、最初から精霊を元に戻そうと考えていないのが明白だった。それどころか、この場所で精霊を結晶化させるなど、風の王に殺してくれ、と言わんばかりである。
「ふふ……。だいぶ仕上がってきたわね」
魔術師が満足そうに微笑んだ。結局、この災いの原因は、目の前の結晶化させられた精霊が原因だった。山に集まった精霊達は、同族が貶められ怒っていたのだ。ティティスの瞳に映る結晶は赤黒く濁っており、腐臭と憎悪を際限なく放っている。
「それじゃあ、仕上げるわよ?」
そういうと、魔術師は再び手を前にかざした。手には何かが握られている。よく見ると、それは禍々しく刃が波打った小振りのナイフだった。魔術師は心底楽しそうに笑いながら、異形の結晶にそのナイフを突き立てた。その瞬間、元々精霊だったものは断末魔とも言える怨念の衝撃波を放って消し飛んだ。
多少離れていたとはいえ、ティティスにはそれをよける術はなく、空間の震えが身体をまともに打ち付け、突き抜けた。心臓が何かに握りつぶされるように圧迫されるが、心拍数は際限なく上がっていくという、体内で起こっている矛盾。全身の毛穴からは汗ではなく、血が吹き出るような、いや、搾り取られるような感覚。視界は真っ赤に染まり、眼球はもちろん、口からねじ込まれた何かによって内臓が全て引きずり出されるような錯覚。脳が全ての活動を止め死にゆく予感と、単純な死ではなく、輪廻の輪からも外れてしまうような、自分の存在が消去されてしまう恐怖。あらゆる絶望がティティスを襲っていた。時間にすれば5秒も無かったかも知れない永遠の絶望の中、ティティスを現世に留めたのは、
「お待ちしておりましたわ……」
という、魔術師の恍惚の声色だった。魔術師の視線の先には、風の王が現れていた。王は、ティティスが見たことのないくらいに怒っていた。
「何か言い残すことはないか?」
洞窟全体を崩してしまいそうな響きで発せられた古代語は、目の前の不遜な魔術師を、存在から完全に消し去るという王の意志だった。
「まあ、せっかくお会いできましたのに……。精霊の巫女様と言い、こちらの皆様はせっかちなんですね」
そこで、怒りで我を忘れていたと思われる王の意識が、初めてティティスの方に向けられた。つまり、姿を現してから今まで、ティティスの存在に気づいていなかったようだ。
「それでは、親愛なる王に、姿を見せていただいたお礼として、最高の宝を献上いたしましょう……」
そう言うと、魔術師はローブの中にそっと右手を入れた。すると、普段は風が入らない洞窟の中に、突風が吹き荒れた。王が警戒をしているのだ。しかし、そんなことはまるで気にとめず、魔術師は銀の長髪を巻き上げられながらもローブから手を抜いた。その手には、先程精霊の結晶を打ち砕いた物より一回り大きな短剣が握られていた。そして魔術師は、何かをつぶやきながら、奇妙に刀身がねじ曲がった短剣を振り下ろした。しかし、精霊王は姿を現しているとはいえ、それは物質界にイメージを固定するためだけの便宜上のもので、実際に王を傷つけられるはずはなかった。
「ぐっ……」
しかし常識に反して、短剣の切っ先は確実に精霊王を傷つけた。どうやらその短剣には、空間自体を切り裂く力があるようだ。古代魔法が付与されているのかも知れない。しかし、王に付いた傷は微々たる物で、体勢に影響を与えるものではなかった。
「この程度か? 手の込んだことをしてくれた割には!」
王は怒りを込めて、人間など容易にバラバラにできる無数の空気の刃を、魔術師に向かって放った。
(終わったわ!)
ティティスは、洞窟の壁にもたれながら、事件に終止符が打たれたことを確信した。しかし、その暴風が収まった瞬間、渦の中心だった場所に現れたものを目にして、ティティスを驚愕が襲った。魔術師は無傷で立っていた。
「本当にせっかちなんだから……。おかげで護符を3つもダメにしちゃったじゃない。もういいわ。もう少し楽しみたかったけど、そろそろ第一幕を終わらせましょう」
風の護符を用いて傷を負わなかったらしい魔術師は、左手を天に掲げた。すると、洞窟を満たしていた邪悪な空気が濃縮され、掲げられた手の上に赤黒い玉になって集まった。魔術師は、それを先程の剣筋にあわせ、小さく何かをつぶやいた。その瞬間、憎悪の固まりから精霊王に向かって、稲妻のように何かがほとばしった。
「ぐお……!」
悪意の放出は、空間を越えて直接届き、精霊王の存在を確実に汚していった。目で見えるイメージで言えば、先程の傷口を中心に、身体がだんだん黒ずんでいく感じである。
「うふふ……」
その様子を見ながら、魔術師は恍惚の表情を浮かべていた。
「そこまでよ!」
精霊王の危険を感じ取り、ティティスは太股のホルダーからダガーを1本抜き、魔術師めがけて投げつけた。ダガーは一直線に中を走り、ティティスの狙った通りに魔術師の左手の甲を貫いた。
「くぅ……!!」
魔術師は、反射的に手を引いた。すると、魔術師の集中が切れたのか、邪気の固まりははじけ飛び、急速に辺りへ拡散していった。
「ふぅ……」
ティティスは、とりあえず王から危機が去ったことを確認して、小さくため息をついた。辺りには、まだ少し怨念の残り香が残っていたが、気にしなければどうと言うことはないレベルだった。
「助かったぞ、心美しき娘よ」
王はそう言うと、改めて魔術師を葬り去るべく空気の刃を巻き起こした。そして、それをためらうことなく魔術師にぶつけた。しかし、魔術師は慌てることなく右手に残っている剣を、横薙ぎにふるった。すると、真っ直ぐ魔術師に向かっていたはずの空気の渦は進路を変え、ティティスに向かってきた。
「!!」
声を上げる間もなく、ティティスは巻き上げられ、洞窟の天井に身体を打ち付け、空気の刃で身を切り刻まれながら落下した。まだ生きていられるのは、王がとっさに風を解放したからであろう。さもなくば、自分の身体は細切れになっていたはずだ。
「まったく……。付き合いきれないわね」
左手からティティスのダガーを引き抜きながら、魔術師が言った。
「いいかしら、王様? あなたの存在の中には、もうさっきの怨念が入っているの。そして私はそれを操れる。これがどういうことかおわかりになるでしょ?」
魔術師はそこで一度言葉を切り、ククッ、と笑った。
「これからあなたが人間界に姿を現せば、その巻き起こす風は怨念を運んで人間界を駆けめぐるわ。山は枯れ、湖は腐っていく。それに、あなたがどこに現れようとも、この私に隠すことはできないわ。だってそうでしょ? この怨念の臭い、私が大好きな臭いなんだから……」
全てを話すと、魔術師は心底おかしいといった様子で、高らかに笑った。その様子を見た精霊王は、急速にその存在を人間界から消していった。気配が消える寸前、ティティスの頭に直接精霊王の思念が飛び込んできた。王は言った。
「あとは頼んだ」
と。
まだ王の気配の残り香が残る中、ティティスは最後の力を振り絞って立ち上がった。本当は地面に這いつくばったまま体力を回復させていたかったが、歩み寄る足音がそれを許さなかった。
「さて、あなたには借りを作ったからね。色々お返しをしてあげるわ」
そういうと、魔術師はティティスが貫いた左手から流れる血をすすった。
「さあ、何でも聞いてちょうだい?」
魔術師は、壁に寄りかかっているティティスの正面にある岩に座り、足を組んだ。スカートに入っている大きなスリットから、白い足が覗いた。
「あなたは……何がしたいの?」
ティティスにとって、それが一番の謎だった。今回の儀式は、結果的に精霊王を人間界に現れる事ができないようにするためのものだった。それで誰かが何か得をするとは、ティティスは到底考えられなかった。にもかかわらず、目の前の魔術師は満足げだ。
「まぁ……! 最初の質問がそれなの? 私は自己紹介ができると思って楽しみにしていたのに……」
落胆した様子で魔術師はため息をついた。が、気を取り直した様子で話を始めた。
「まあいいわ。今は気分がいいから何でも話してあげる。でも、あとで自己紹介はさせてね?」
そう言って、魔術師はククッ、と笑った。
「さっきの話、覚えてるかしら? これは第一幕だって。実はね、第二章の一幕なのよ。何章まであるかは想像にお任せするけど、二章の目的はもちろん風の精霊王を支配すること」
ティティスは、全身の痛みを忘れて魔術師の言葉に聞き入った。
「本当は、二章は一部構成だったのよ? でもここ数年、どうにも精霊王がこっちに来る回数が増えてね。昔は何十年に一回のペースだったのに……。それで仕方なく一幕を増やしたの。それが今日の儀式よ。目的は、もちろん簡単にこっちの世界へ出てこられないように、精霊を縛ること。あわよくば一気に支配してしまおうかとも思ったけど……あなたに止めてもらってよかったと思っているわ。あのままだと支配も不完全に終わったかも知れないし」
そういって、魔術師は一息ついた。
「それで? 時間を稼いでどうするの? そう簡単に王を支配できるとは思えないけど?」
ティティスは言った。すると、魔術師はさも普通のことのように言ってのけた。
「まぁ、100年もあればできなくもないんじゃない?」
その言葉に、ティティスは思わず笑ってしまった。今の年齢を考えると、目の前の魔術師がこの先100年も生きていられるとは思えなかったからだ。しかし、次の魔術師の言葉で、ティティスは一瞬にして凍り付いた。
「今日の儀式だって、200年溜めた力を使ったのよ?」
ティティスの様子を見て、魔術師は満足げに笑った。
「じゃあ、ちょっとだけ自己紹介するわね。あなた、私の事を魔術師だと思っているでしょ? それ、間違っているわ。私、呪術師なの」
それを聞いて、ティティスは頭の中で何かが繋がったような気がした。
「さっき精霊王にプレゼントしたのは呪いよ。だから、いくら精霊が魔法に強いとはいえ、さっきの呪いは解けないんじゃないかな? 精霊王でもね。……あら、ごめんなさい。あなたの希望がなくなるようなことを言っちゃって」
確かに、ティティスは精霊王が自力で魔法による拘束を解くことを期待していた。しかし、根本的に仕組みが異なる呪いというものを解くことは、心得がないと難しいに違いない。
「あとは、精霊王の目の届かないところで支配する方法を煮詰めて、それが完成したらまた呼び出せば、二章もエンディングね。さて、と……」
そういうと、呪術師は腰を上げ、ティティスの方へ向かってきた。そしてティティスの顎に右手を添えると、顔をじっと見つめて微笑んだ。
「それにしても綺麗ね、あなた。せっかくだから、もう少し自己紹介させてもらってもいい?」
空いた左手で頬を触ってくる。ティティスは右の頬に呪術師の血が塗られていくのを感じた。
「私ね、美しいものが大好きなの。この身体も、もう何人目かになるけど、美しいから気に入っているわ」
そう言うと、呪術師はティティスの金髪を愛おしそうに撫でた。
「でももっと好きなものがあるわ。それはね……」
そこまで言うと、呪術師は一歩下がり、左手をティティスに向かって突き出した。すると、ティティスを中心にして風が渦を巻き始めた。次第に風は強くなっていき、空気は刃の様になっていった。
(これは……王の力!?)
ティティスがそう思った瞬間にはもう、身体は風の刃に身を切られ、壁に叩きつけられていた。身体のどこにも力が入らなかった。そんなティティスに呪術師は近づいてきた。そして、美しい金髪を鷲掴みにして、ティティスの顔をのぞき込みながら言った。
「あなたのように、最高に美しい者が苦しみ悶える姿が最高に好きなの!」
視線の先にある呪術師の赤い瞳がギラリと輝いた。ティティスは最後の力を使って、拳を呪術師の顔めがけて突き出した。しかし、傷を負わせることなどできるはずもなく、パチンと小さな音を立てただけだった。ティティスは絶望した。それでも目の前の憎らしい顔を睨みつける事だけはやめなかった。
「さあ、後は……殺すだけでしょ? 早く……しなさい」
ティティスの言葉を聞き、呪術師は声を上げて笑った。
「そうね。そうするつもりだったわ。でも、その目を見て気が変わったわ。あなたは美しい。だから、もっと私を楽しませてちょうだい?」
そう言うと、左手をティティスの顔にかざした。
「あなたに二つ、絶望をプレゼントしてあげる。一つは、あなたの大事なものを奪うわ。精霊達と交信する能力を、ね。」
大量に出血しているにもかかわらず、ティティスは全身から血の気が引いていくのを感じた。
「もう一つ。あなたには今のままの美しさを保って欲しいの。だから、不死の力を授けるわ。だから、これから私のすることの一部始終を、この世のどこかで見ていなさい。次に会うとき私がこの姿をしているかどうかはわからないけれども。しっかり見ていくのよ?何百年かかけて、あなたの敬愛してやまない風の精霊王が、この私に支配されていく様子を……ね?」
そう言って、目の前の女は呪詛を唱え始めた。
(や、やめて……!!)
しかし、ティティスの心の叫びは受け入れられるわけもなく、視界が真っ赤になるのと同時に、ティティスは意識を失った。
ティティスの意識が戻ったとき、洞窟の中にはもはや、風の精霊王の気配は微塵も感じられなかった。地面に横たわるボロボロの身体をやっとの思いで引き起こしたが、そこで力尽き、背後の岩に倒れ込んだ。その弾みで、空気が肺から一気に逆流し、ティティスは激しく咳き込んだ。
「うっ……」
それが収まると、口の中には鉄の味が広がっていた。口元を押さえていた手を見ると、血が付いていた。おそらく肺からの出血だろうが、本当にそうなのかは自信がない。風の刃によって、ティティスの身体は切り刻まれ、出血していないところを探すのが難しいからだ。四肢に欠損がないことが奇跡だった。
「それでも私は……死ねない」
ティティスは、呪術師の最後の言葉を思い出し、苦々しくつぶやいた。
それからどれだけ時間が経ったか分からない。ようやく歩けるだけの気力と体力が回復し、壁を伝いながら洞窟を出たときには、外は夕方だった。固まった血がこびりついた髪が風に揺れる。しかし、ついさっきまで普通に見えていた精霊達の動きは、何も感じることができなかった。自然と涙がこぼれてきた。
慣れ親しんだ山道も、精霊達が見えないと全く楽しくなかった。傷のせいで普段通りに歩くことができず、行程の半分にも満たない場所で、空には月が昇っていた。休憩するために、河原で火を起こした。少しでも体力を回復させるため、川の水をすくって飲んだが、胃が受け付けずに逆流してきた。思わず吐き捨てると、そこには真っ赤な水たまりができた。内臓の出血はまだ収まっていないのかもしれない。そこでティティスは、通り道で摘んできた、出血に効く野草を、河原の丸い石ですりつぶした。それを口に含み、再び川の水をのどに流し込んだ。先程と同じように吐き出しそうになったが、ティティスは我慢して、水を胃に収めた。それを5回ほど繰り返すと、不思議と身体が安らいできた。疲れがドッと押し寄せる。大きめの岩を背にして座り込むと、山の下の方に、松明の光らしい明かりが見えた。
(私を捜してくれているのかな?)
そんな気がしたので、ティティスはこの森でしか自生しない木の枝をポケットから出し、たき火に放りこんだ。これは、山で問題があったときの村共通の合図である。あとはこの臭いを、今は見えない風の精霊が仲間へ運んでくれるはずだ。ティティスは、枯れ枝が燃えるときに発する独特な香りをかぎながら、瞳を閉じた。
ティティスが目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。看病をしてくれていたらしい、妹分の娘と最初に目があった。
「気づいたんですね!? 何か欲しい物とかありますか?」
気を失う前に飲んだ薬草も効いているのか、食欲が湧いてきた。気づいた途端に頼むのも少し恥ずかしかったが、軽い食べ物を頼むことにした。
「わかりました! 長老にも伝えてきますね!」
と言って、娘は部屋を駆けだして行こうとした。
「ちょっと待って!」
あわててティティスは娘を呼び止めた。怪訝そうな顔をする娘を見つめながら、ティティスは言った。
「食事を頼んだことは、伝えなくてもいいわよ?」
娘は初め、何のことか分からなかったようで呆けた顔をしていたが、すぐに全てが分かったらしく、声を上げて笑っていた。ティティスもつられて笑った。そして、部屋を出ていく娘の背中を見ながら、心の中でつぶやいた。
(よかった。私、まだ笑い方を忘れてなかった……)
娘が気を利かせてくれたのか、長老が部屋にやってきたのは、ティティスが食事を終えた後だった。
「無事で何よりじゃ」
そう言ってくれた長老に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ティティスは、妹分に席を外してもらい、長老と二人だけになると、全てを隠さず話した。洞窟で起こったこと。王に起こったこと。そして、ティティス自身の呪いについても。そして、泣いた。長老の胸の中で、延々と泣いた。長老は、ただただ優しくティティスの髪を撫でてくれていた。
傷が癒えていく内に、ティティスの中で一つの考えが浮かんでいた。そして、完治する頃には、考えは決意に変わっていた。
「どうしても行くんですか!?」
村を出るとき、妹分に泣いてすがられた。
「ええ、決めたの。もう一度、心から笑って暮らせるように、ね。あなたは新しい巫女なんだから、もっとシャンとしなさい」
そう言って、娘の髪を撫でてやった。
「長く苦しい道かもしれんぞ?」
長老が話しかけてきた。
「覚悟の上です。でも、村で忘れられる位長い時間がかかったとしても、私は必ず帰って来ます。目的を果たして……必ず……!」
ティティスはそう告げて、村の者達に背を向けて歩き出した。後ろからは、村人達のすすり泣く声が聞こえる。
「この村の巫女は、姉さんだけです! 私は姉さんの代わりにはなれないけど、姉さんがいつ帰ってきてもいいように、村を守っていますから! だから……だから……」
娘の言葉は、最後の方は嗚咽に変わっていた。しかし、何が言いたいかはよくわかった。だからティティスは、その声に手を挙げて答えた。振り返ることはせずに。代わりに、村人達が作ってくれた背中の弓を、そっと撫でた。
「ん……」
ティティスは目を覚した。夢を見ていたようだ。運命を変えた、3年前の出来事の夢を。
(懐かしい……夢だったわね)
何度か同じような夢を見たことがあったが、ここまで鮮明なものは初めてだった。
(この風のせいかしら?)
山の方からそよそよと吹く風は、ティティスの長髪をなびかせ、月明かりに輝く金の糸を演出していた。
ティティスは今、ある町の外れにある邸宅を見渡せる、高い木の上にいた。仕事の時間まで、仮眠をとっていたのだ。月の高さから推理すると、そろそろ待っていた時間になりそうである。ティティスは、目がくらむような高さであるにも関わらず、その細い枝の上にヒョイ、と立って軽く伸びをした。ここからだと、周りを高い壁で囲われている邸宅のベランダが、一直線に見える。
(さて、そろそろ……ね)
ティティスは、腰の矢筒から矢を1本抜き出した。それから3つほど数えると、建物からベランダへ誰かが出てきた。今回の仕事は、そこへ向かって弓を引き、矢を放つだけである。
(私、まだ笑い方……覚えているかな?)
この道を歩み始めてからの3年間、心から笑ったことはなかった。涙は村を出るときに流したのが最後だった。だから、時々不安になる。全ての決着が付いた後、自分は村へ戻ることができるのか、村の優しかったみんなは、こんな自分を再び暖かく迎え入れてくれるのか、と。
(それでも……私は死ねない)
弓に矢をつがえて引き絞る。
(呪われたこの身体は、死ぬことを許さない)
ベランダの人物の額に狙いをつける。
(……でも、だからじゃない! 私は死ねない!)
右手を開いた。弦の反動で飛びだした矢は、吸い寄せられるかのように、ベランダの人物の額へ向かって銀の軌跡を描いた。
(村のみんなが笑って暮らせるために王を解放する、その時まで……私は……死ねない!)
銀の軌跡はベランダの人物の眉間を通り、壁に当たって切れた。
(そしてその時に、もしみんながまだ私を受け入れてくれるのならば……)
カツーン、という金属音にワンテンポ遅れ、ドサッ、という音が周囲に響いた。
次の瞬間、高い木の上の方が揺らいだ。周囲に人影は全くなかったが、例えその様子を誰かが見ていたとしても、
「風でも吹いたのか?」
位にしか思わなかっただろう。そしてこの場所には、ベランダの壁に刺さった矢と、先程まで人間だった肉塊、それ以外は何もなくなった。他には何も……。
サポ転職歴:なし
取得成長点:30点
使用成長点:30点(残り0)
レベル/30
フェイト/0
転職/0
ギルド/0
【冒険履歴】
○2005/04/17(日)キャラクター作成
○2005/06/25(土)ライフパスとそれに伴う能力値修正

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